エレベーターの耐震基準まとめ|地下鉄の耐震性チェックと対策も紹介

公開日 2024.12.25

地下に通じるエレベーターの耐震基準とはなにか?
本記事では耐震基準の変遷や具体的な対策事例を解説します。
最新基準の特徴や既存設備の課題を理解し、災害時の備えを万全にしましょう。



はじめに

地震大国・日本では、大地震の度にエレベーター事故が発生しており、エレベーターの耐震基準が見直されています。
本記事では、過去から現在に至る耐震基準の変遷や、地下鉄の具体的な耐震対策事例を詳しく解説します。
旧基準と最新基準の違いや、既存設備の課題についても解説しているのでぜひ最後までご覧ください。





地下エレベーターの耐震基準とは?

地震が多い日本において、エレベーターの耐震基準は極めて重要な役割を担っています。
地下エレベーターは、地上の建物に設置されているものと異なり、構造上の特性から特別な基準が設けられています。

エレベーターの耐震基準は、地震発生時にエレベーターが落下したり閉じ込められたりするリスクを軽減することを目的としています。 また、地下エレベーターは周囲の地盤の動きや揺れ方に影響されやすく、通常の建物よりも厳しい基準が必要です。 こうした基準は、過去の震災を教訓にたびたび改定されてきました。 それでは、次項で具体的な基準や変遷について解説します。


メーカー自主基準

エレベーターの耐震対策は、国が定める基準に加えて、各メーカーが独自の自主基準を設定しているケースが増えています。 メーカーの自主基準は、国の基準よりも高い水準であることが多く、震災時のエレベーターの性能向上につながっています。

例えば、主要なエレベーターメーカーでは、揺れの予兆を感知してエレベーターを自動的に最寄り階に停止させる機能や、閉じ込められた際の救出時間を短縮する技術を導入しています。
さらに、地震後の再稼働についても、通常より厳しい安全チェックを行うことで、二次被害を防ぐ体制を整えています。

各メーカーの自主基準には多少の違いがありますが、共通しているのは「利用者の安全確保」と「迅速な復旧」です。 耐震技術の進歩は、私たちの暮らしを支える大切な要素となっています。


旧耐震基準

旧耐震基準は1971年以前に定められたもので、震度5強程度の地震に対して最低限の安全が確保されていましたが、大規模地震には対応しきれず、リスクが高い状態でした。 特に1978年の宮城県沖地震ではエレベーターの停止や閉じ込めが多発し、これが耐震基準見直しのきっかけとなりました。

旧耐震基準で設置されたエレベーターは現在も一部使用されていますが、耐震性に不安が残るため、定期的な点検や改修が必要です。
耐震リニューアル工事を行えば安全性は向上しますが、コストや工事期間が課題となる場合もあります。
現行の耐震基準への適合を確認し、安全対策を見直すことで、万が一の際にも安心して利用できる環境が整うでしょう。


81耐震基準

1981年に施行された「新耐震設計法」により、エレベーターの耐震基準が見直され、「81耐震基準」が導入されました。
この基準では、地震時のエレベーター停止や閉じ込めリスクを軽減するため、揺れを感知して最寄り階に自動停止する機能や、建物全体の耐久性向上が図られました。
これによって、地震によるエレベーター事故の発生率は減少しましたが、震度6強以上の大地震には十分対応できていませんでした。

1995年の阪神淡路大震災では、予想を超える規模の揺れが発生し、エレベーター被害が問題視され、さらなる基準の見直しが求められました。
現在も81耐震基準に基づいて設置されたエレベーターが残っていますが、現代の地震対策としては不十分なため、改修やリニューアルが推奨されています。
安全性を高めるためには、耐震補強の検討が重要です。


98耐震基準

1998年に施行された「98耐震基準」は、1995年の阪神淡路大震災を教訓に改定されました。
この震災では震度7の揺れにより、エレベーターのドア変形や閉じ込め被害が多発し、従来の耐震対策の不十分さが浮き彫りになりました。

98耐震基準では、地震時管制運転装置が義務化され、地震の初期微動(P波)を感知するとエレベーターが自動停止する仕組みが導入されました。
また、ガイドレールやケーブル部分の耐震補強が強化され、震度6強から震度7クラスの地震にも耐える性能が実現されています。
さらに、地震後の点検や安全確認手順も明確化され、利用者の安全が最優先されるようになりました。

しかし、98耐震基準以前に設置されたエレベーターは基準未満であることが多く、改修が必要です。
地震が頻発する現代では、98耐震基準を超える技術や新たな基準の策定が求められています。


09耐震

2009年に施行された「09耐震基準」は、2004年の新潟県中越地震や2005年の福岡県西方沖地震の教訓をもとに、エレベーターの耐震対策を強化した基準です。
主なポイントは、地震時の自動停止機能の高度化で、初期微動(P波)に加えて主要動(S波)にも対応し、迅速に最寄り階へ停止する仕組みが導入されました。
また、耐震構造の強化によってシャフトやガイドレールの補強が進み、揺れによる損傷を防ぐ設計が施されました。
さらに、復旧対策として、地震後の点検手順や安全確認プロセスが具体化され、安全な再稼働が可能となっています。

09耐震基準では震度7クラスの地震にも対応できることが前提とされ、従来の基準に比べて安全性が飛躍的に向上しました。
しかし、09基準以前のエレベーターは耐震改修が不十分な場合も多く、定期的な点検や対策が必要です。
今後もさらなる耐震性能の向上が求められます。


14耐震

2014年に施行された「14耐震基準」は、2011年の東日本大震災を受けて見直された基準です。
この震災ではエレベーターの停止や閉じ込め、停電による被害が相次ぎ、従来の耐震基準の限界が明らかになりました。
主な改定内容として、長周期地震動への対応が挙げられ、高層ビルでの振動に耐える構造強化が求められました。

また、耐震自動停止システムは停電時にも非常電源で最寄り階に停止する仕組みが導入され、迅速な避難を可能にしました。
さらに、非常時の救出対策として通話システムや救出マニュアルが整備されています。
14耐震基準は震度7クラスの地震にも対応する設計となり、特に高層建築物の安全性が向上しました。しかし、今後の大地震に備え、定期的な点検や補強が依然として重要です。


既存不適格

「既存不適格」とは、新しい耐震基準が施行される前に設置されたエレベーターが、現行の基準を満たしていない状態を指します。
特に旧耐震基準や81耐震基準で設置されたエレベーターは、耐震性能が低く、大地震時には停止や閉じ込めのリスクが高くなります。

例えば、1981年以前のエレベーターは震度6強以上への対応が不十分であり、98耐震基準や09耐震基準にある「地震時自動停止機能」や「ガイドレール補強」が実装されていないことが一般的です。

対策としては、耐震リニューアル工事で機能を後付けし、現行基準に近づけることや、定期的な点検・保守を実施して早期修繕することが重要です。
また、利用者への啓発を行い、改修の必要性を理解してもらう取り組みも欠かせません。
これらの対策で、既存不適格エレベーターの安全性向上が図れます。



【耐震基準のまとめ】

既存不適格エレベーターを放置すると、災害時に大きなリスクを伴います。
最新基準に適合するための対策を講じることで、利用者の安全を確保することが可能です。



地下鉄の耐震対策の実例を紹介

日本は地震大国であり、地下鉄の安全を守るためには最新の耐震対策が重要です。
基準の厳格化とともに設備や構造が進化していますが、事前の点検や対策も欠かせません。
この記事では、大地震時でも安心して地下鉄を利用するための耐震対策事例と技術について詳しく解説します。


都営地下鉄

都営地下鉄では、耐震対策が早くから進められており、特に大地震を想定したさまざまな取り組みが実施されています。
地下鉄は地盤の揺れに影響されやすいことから、駅舎やトンネルの構造を強化し、耐震性能を高めることが最優先とされています。


【主な取り組み内容】
1)トンネル構造の耐震補強
トンネルは地震時に歪みや損傷が起きないよう、耐震補強工事が施されています。特に重要度の高い区間では、地盤改良も行い、揺れの影響を最小限に抑える工夫がされています。

2)停電時の安全確保
地震発生時に電力供給が途絶えた場合でも、非常電源を活用して電車を安全に停止させる仕組みが整備されています。これにより、トンネル内で電車が立ち往生するリスクを減少させ、乗客の安全確保が可能になります。

3)緊急時の避難経路確保
地下鉄では、地震後に乗客が安全に避難できるよう、非常口や避難誘導路の整備が行われています。また、照明や案内板も非常時には自動的に点灯し、迅速な避難をサポートします。

4)車両の安全対策
車両自体にも耐震設計が取り入れられ、揺れによる脱線や故障を防ぐ技術が導入されています。さらに、地震の予兆を感知すると自動的に減速・停止するシステムも備えられています。


都営地下鉄は、日々の運行の安全を確保するために耐震技術を進化させ続けています。
これらの対策により、大地震が発生しても乗客の安全を守る体制が整っています。


東京メトロ

東京メトロでは、東日本大震災の教訓を活かし、さらなる耐震対策が進められています。
地下鉄は地震発生時に揺れの影響を受けやすい構造であるため、乗客の安全確保と設備の損傷防止が重要視されています。


【東京メトロの主な耐震対策】
1)トンネルおよび駅構造の耐震補強
地震による揺れや地盤の変動に備え、トンネルや駅の構造物に耐震補強工事が実施されています。特に古い路線では、基礎部分や壁面の強化が進められ、揺れに耐えうる構造が確保されています。

2)地震時管制運転システムの導入
地震の初期微動(P波)を感知すると、電車は自動的に最寄り駅や安全な位置に停止するシステムが導入されています。このシステムは、震度5弱以上の地震で作動し、乗客の安全を最優先に動作します。

3)非常時の避難設備
地震発生後に避難が必要となった場合に備え、非常口や避難通路が整備されています。さらに、停電時でも機能する非常照明や避難誘導標識が設置されており、暗闇でも安全に避難が可能です。

4)車両の耐震設計
東京メトロの車両は、地震時に脱線や車両変形を防ぐための耐震設計が施されています。また、地震の揺れを受けにくくするための技術も導入され、安全性を高めています。

5)システムの復旧対策
地震後の運行再開に向けて、被害の有無を確認する点検作業が迅速に行われる体制が整備されています。これにより、二次災害の防止と早期復旧が可能になりました。


東京メトロの耐震対策は、現代の技術を駆使し、地震時における乗客の安全を第一に考えた取り組みです。
これにより、万が一の際にも安心して利用できる地下鉄環境が維持されています。





まとめ

エレベーターの耐震基準が必要なのは、地震が起きたときにエレベーターを安全に使えるようにするためです。
地震のとき、エレベーターが壊れたり、途中で止まったりすると、乗っている人が閉じ込められたり、けがをする危険があります。
また、エレベーターの箱(かご)が上下に揺れると、建物や機械自体にもダメージを与える可能性があります。
さらに、地震後にエレベーターを点検や修理するのにも時間がかかるので、たくさんの人が困ることになります。

そこで、耐震基準があることで、エレベーターが地震に強くなるように設計されています。
たとえば、地震を感知すると自動で最寄りの階に止まり、扉を開けて乗っている人を安全に避難させる仕組みがあります。
また、地震による揺れに耐えられるように部品を強化したり、建物に合わせてエレベーターの取り付け方を工夫したりしています。

つまり、耐震基準は、地震が起きてもエレベーターを安全に使えたり、被害を最小限に抑えたりするために、とても大事なルールなのです。



メトロ設計では、専門のスタッフが丁寧に対応し、最適な解決策をご提案いたしますのでお気軽にお問い合わせください。

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