地下鉄の防災シミュレーションとは?災害リスクと最新の訓練事例まとめ

地下鉄利用時に潜む災害リスクとは?
防災シミュレーションの重要性や、日常生活でできる備えについてわかりやすく解説します。
はじめに
私たちが通勤や通学で日々利用している地下鉄には、普段は気づきにくい危険が潜んでいます。
地震や火災などの災害が発生すると、密閉された空間である地下鉄は、想像以上に大きなリスクを抱える場面に直面します。
こうしたリスクに備える取り組みとして、今注目されているのが「防災シミュレーション」です。
災害時にどのような行動を取れば安全を確保できるかを、事前に体験できる防災訓練が、各地で積極的に導入され始めています。
本記事では、地下鉄における災害リスクと、防災シミュレーションの重要性について詳しく解説していきます。

地下鉄が抱える防災リスクとは?
都市生活に欠かせない交通手段である地下鉄ですが、地上とは異なる環境に位置するため、特有の災害リスクを抱えています。
とくに密閉された空間であることや、避難経路が限定されている点が、大きな危険要素となっています。
まず、地震が発生した場合を考えてみましょう。
揺れの影響で電力供給が停止すれば、車両が線路上で止まり、照明も消えてしまうおそれがあります。
暗闇の中で乗客がパニックに陥れば、避難誘導も困難になり、二次的な事故が起こる可能性が高まります。また、狭いトンネル内では逃げ場が限られるため、迅速な避難行動が求められます。
次に、火災が起きた場合のリスクも無視できません。
地下空間では煙が充満しやすく、出口に向かう動線上でも視界が奪われる危険性があります。
さらに、一酸化炭素など有害なガスが広がることで、短時間で命に関わる状況に陥るおそれもあります。
地上での火災とは違い、自然換気が期待できない環境にあることが、被害を拡大させる一因となっています。
さらに、近年ではゲリラ豪雨による浸水被害も深刻な問題となっています。
短時間で大量の降雨があった場合、地下鉄の出入口や排水設備から水が逆流し、駅構内や線路に流れ込む危険性が高まります。
排水設備の容量を超える雨水が一気に押し寄せれば、わずかな時間で構内が冠水し、利用者の避難が極めて困難になる恐れもあります。
このように、地下鉄にはさまざまな災害リスクが存在します。
特に以下の3点が大きな課題となっています。
●地震による停電や列車停止による混乱
●火災による煙の充満と視界不良
●ゲリラ豪雨による急速な浸水リスク
これらのリスクは、普段の利用では意識する機会が少ないものの、ひとたび災害が発生すれば、命に関わる重大な問題へと直結します。
とくに地下鉄は構造上、地上よりも避難や救助に時間がかかる傾向にあります。
そのため、利用者一人ひとりが地下鉄特有の危険性を理解し、日頃から災害への備えを意識することが欠かせません。
防災意識を高めることで、緊急時にも落ち着いて適切な判断ができるようになります。
安全に地下鉄を利用するためには、地下ならではのリスクを正しく把握し、具体的な対策を自分自身の行動に落とし込んでいくことが重要です。
防災シミュレーションとは何か?
防災シミュレーションとは、地下鉄などの公共交通機関において、災害発生を想定し、実際に避難行動や初期対応を体験する訓練のことを指します。
通常の防災訓練とは異なり、実際に駅や車両を使い、できる限りリアルな状況を再現するのが特徴です。
この取り組みの目的は、災害時に適切な行動を取るための判断力や行動力を養うことにあります。
実際の現場で避難ルートを歩き、危険箇所を確認しながら動くことで、災害発生時に迅速かつ冷静に行動できる力が身につきます。
また、訓練を通じて、自分自身がどう動くべきかを具体的にイメージできるようになる点も重要なポイントです。
防災シミュレーションには、鉄道会社の職員だけでなく、地域住民や一般利用者も参加することがあります。
たとえば、駅構内に大量の煙を発生させ、火災を想定した避難訓練を行ったり、地震発生後の停電シナリオをもとに安全誘導の流れを確認したりするケースが見られます。
また、災害発生時に重要な役割を担う関係機関との連携も、防災シミュレーションの大きな目的の一つです。
消防、警察、自治体などとの連携を図りながら、情報伝達や避難誘導の流れを確認し、対応力を高めることが求められます。
たとえば、訓練の中では次のようなシナリオが実施されます。
●地震発生により駅構内の電源が停止し、非常灯の明かりだけで避難する体験
●車両火災を想定し、煙の中をかがんで移動する避難行動の練習
●浸水による線路冠水を想定し、緊急時の連絡手順や指揮系統の確認
このように、単なる座学ではなく、実際に体を動かして災害対応を身につけることが防災シミュレーションの最大の特徴です。
災害は、いつどこで発生するかわかりません。
そのため、日常的に利用する地下鉄においても、自らの命を守るための行動を具体的にイメージしておくことが大切です。
「もし、駅構内で火災が起きたらどこへ逃げるか」「列車が停まったらどう行動するか」といったシミュレーションを、普段から意識しておくことが重要です。

防災シミュレーションの実施事例
災害時に落ち着いて行動するためには、日ごろから現場での訓練を重ねることが重要です。
地下鉄では、実際の設備を使った防災シミュレーションが各地で行われています。
ここでは、実施事例を紹介しながら、防災訓練の意義と現場で得られる学びについて解説します。
上野駅周辺の帰宅困難者対策(シナリオ訓練)
大規模災害が発生すると、多くの人が公共交通機関を利用できず、その場で立ち往生してしまいます。
こうした「帰宅困難者」の問題に対応するため、上野駅周辺では実践的なシナリオ訓練が行われています。
この取り組みは、単なる避難訓練にとどまらず、現実に即した行動ルールの策定や滞留者対策に重点を置いています。
上野駅は、鉄道各線が集中するターミナル駅であり、通勤・通学・観光と幅広い利用者が集まる場所です。
そのため、災害時には数万人単位で帰宅困難者が発生することが想定されています。
このリスクに備え、東京都や関係機関は連携し、具体的な対応策を検討しています。
訓練では、まず「その場にとどまる」という基本方針に沿って、駅構内や周辺施設に滞留スペースを確保するシミュレーションが行われます。
無理に移動を始めると二次災害に巻き込まれる危険があるため、安全確保を最優先とする行動指針が設けられています。
また、滞留者への物資提供や情報提供も訓練の重要なポイントです。
非常食や飲料水、簡易トイレなどを効率的に配布するための流れを実際に確認し、迅速な支援体制を整えることが目指されています。
情報伝達についても、駅構内放送やデジタルサイネージを活用し、多言語対応を含めた案内方法が検証されています。
加えて、地下鉄駅の設計と連動した避難シミュレーションも実施されています。
たとえば、通路の幅員や階段の配置を踏まえ、どのルートを優先的に開放するかを検討し、緊急時の動線を確保する取り組みが進められています。
浅草地下街の浸水対策
浅草は国内外から多くの観光客が訪れるエリアですが、その地下街は地形の特性上、浸水リスクを常に抱えています。
こうした状況に対応するため、浅草地下街では浸水被害を想定した対策シナリオの可視化が進められています。
対策の第一歩は、被害想定図の作成です。
ゲリラ豪雨や台風による大雨を想定し、どの範囲まで浸水が広がるのか、どれくらいの深さになるのかをシミュレーションしています。
この図面をもとに、各店舗や施設管理者が具体的な対策を検討できるようになっています。
また、浸水リスクに応じた避難導線の確保とシャッター設計の見直しも行われています。
たとえば、非常口の配置を再確認し、短時間で安全な場所へ避難できるルートを確保する取り組みが進められています。
浸水の恐れがあるエリアでは、手動・自動いずれにも対応可能な防水シャッターを設置し、浸水拡大の防止を図っています。
東京都交通局浸水対策施設整備計画
都営バスや都営地下鉄を運営している東京都交通局では、地下鉄の浸水や高架下の耐震対策などを計画しています。想定される荒川氾濫や高潮などの水害を対象とし、2030年半ば~2040年半ばの対策完了を目指しています。
主な整備手法として、駅構内への防水扉や、トンネルや地下車庫への防水ゲート、駅出入口には止水板、防水扉、防水シャッターを設置する計画です。これらの対策により想定最大規模の降雨でも地下鉄への流入防止が可能とされています。
このほか、浸水発生時に備えたマニュアル整備も重要な施策です。
どの段階で避難指示を出すか、どのタイミングでシャッターを閉めるかといった判断基準を明文化し、迅速な初動対応を可能にしています。
さらに、対策の実効性を高めるため、定期的な訓練も実施されています。
実際に水の侵入を想定したシミュレーションを行い、避難ルートやシャッター操作の手順を確認することで、いざというときに慌てず対応できる体制を整えています。
参考:「東京都交通局浸水対策施設整備計画(概要)」https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/about/safety/pdf/flood_facility_plan_00.pdf

防災シミュレーションに参加するには?
防災シミュレーションに興味を持った方は、誰でも参加できる訓練に積極的に参加してみましょう。
近年では、鉄道事業者や自治体が主催する防災訓練に、一般の利用者も参加できるケースが増えています。
たとえば、東京都では定期的に大規模な防災訓練を実施しており、その中に地下鉄施設を使った避難訓練が組み込まれています。
事前に申し込みが必要な場合もありますが、多くの訓練は無料で参加でき、実践的な学びを得られます。
参加方法は、主催者が公式ウェブサイトや広報誌などで告知する情報をチェックするのがおすすめです。
最近では、SNSなどでも防災訓練の募集情報が発信されており、誰でも簡単に情報を得られるようになっています。
申し込みにあたっては、参加対象や持ち物、服装の注意点などが案内されています。
たとえば、「動きやすい服装で参加」「長時間歩く可能性があるため、歩きやすい靴を着用」などの条件が提示されることが一般的です。
また、感染症対策として、マスクの着用や健康チェックシートの提出が求められる場合もあります。
避難訓練では、以下のような体験ができます。
●地震発生時の避難誘導体験
●火災による煙充満下での避難行動体験
●浸水被害を想定した移動訓練
●緊急時の情報伝達や指示系統の確認
これらを実際に体験することで、災害発生時にとるべき行動を具体的にイメージできるようになります。
また、初めて参加する場合でも、スタッフによる丁寧なサポートがあるため安心して取り組めます。
私たちにできる地下鉄での防災対策
防災シミュレーションに参加できなくても、日常生活の中でできる備えはたくさんあります。まず、地下鉄を利用する際には、非常口の場所を意識的に確認する習慣をつけましょう。
駅構内や車内には、非常口の案内表示や避難経路図が掲示されています。
普段から目を向け、どこに逃げるべきかを頭に入れておくことが、いざというときの迅速な行動につながります。
また、スマートフォンの防災アプリを活用することも効果的です。
通知機能をオンに設定し、緊急時に素早く情報を得られるようにしておきましょう。
さらに、携帯用の防災グッズを持ち歩くことも、万一に備えるうえで重要です。
たとえば、以下のようなアイテムを常備しておくと安心です。
●携帯用懐中電灯またはスマートフォン用ライトアプリ
●簡易マスク(煙対策や粉塵対策に役立ちます)
●携帯用充電器(長時間の停電に備えます)
●小型の飲料水や非常食(最低限のエネルギー補給)
●簡易救急セット(軽傷時の応急手当に使用)
これらのグッズは、コンパクトなポーチなどにまとめておけば、普段の持ち歩きにも支障がありません。
災害発生時には、「落ち着いて行動する」ことが何よりも重要です。
また、駅員や係員の指示に従うことも忘れてはいけません。
現場での指示は、利用者の安全を守るために出されています。
自己判断で動くのではなく、指示をよく聞き、落ち着いて行動することが求められます。
日々の生活の中で「もしも」を考え、できる準備を積み重ねることが、命を守る力になるのです。

まとめ
地下鉄は便利な交通手段ですが、災害時には密閉空間ならではのリスクが潜んでいます。 地震による停電や火災、浸水といったリスクを正しく理解し、普段から備えておくことが重要です。 防災シミュレーションに参加することで、実際の避難行動を体験し、冷静な判断力と行動力を身につけられます。 また、非常口の確認、防災グッズの携帯、スマホアプリの活用など、日常生活でもできる備えは多くあります。 普段から防災意識を持ち、落ち着いた行動を心がけることが、自分と周囲の命を守る力につながります。
メトロ設計では、専門のスタッフが丁寧に対応し、最適な解決策をご提案いたしますのでお気軽にお問い合わせください。

インフラ関係の情報を定期的に発信しています!
長年の知識を生かしたマネジメントで、住民の方と施工事業者との架け橋となるような、建設コンサルタントを目指しています。
無電柱化や電線共同溝、道路、上下水道、地下鉄など、地下インフラの整備は弊社へお任せください。どうぞお気軽にご相談くださいませ。