上下水道の災害対策とは?豪雨・地震に備える更新設計と機能維持のポイント

公開日 2026.9.26

はじめに

豪雨の激甚化や大規模地震の発生により、上下水道には平常時の安定供給・排水だけでなく、災害時にも必要な機能を維持し、被災後に早期復旧できることが求められています。

上水道では、管路や施設の破損、停電によるポンプ停止などが断水につながります。一方、下水道では、短時間に集中する雨が排水能力を上回ることで内水氾濫が発生したり、処理場・ポンプ場の浸水によって排水・処理機能が低下したりするおそれがあります。

重要なのは、災害を完全に防ぐことではありません。被害を可能な限り抑え、被災しても優先機能を継続し、速やかに復旧できる状態をつくることです。そのためには、老朽化対策と災害対策を別々に進めるのではなく、更新計画・設計・施工・運用を一体で考える必要があります。

本記事では、豪雨時の下水道対策、地震時の上水道対策、水道BCP、更新設計のポイントと進め方を実務の視点から解説します。




目次
  1. 上下水道の災害対策を「更新設計」で考える理由
    1. 上水道と下水道では守るべき機能が異なる
    2. 老朽化対策と防災対策を別々に進めない
  2. 豪雨時に下水道機能を守るための対策
    1. 内水氾濫はなぜ起こるのか
    2. 雨水排水能力と既存管路を確認する
    3. 雨水貯留施設・雨水浸透施設で流出を抑える
    4. 排水ポンプ・逆流防止・耐水化を組み合わせる
  3. 地震時に上水道の供給を維持するための対策
    1. 管路破損と断水が地域機能に与える影響
    2. 水道管・水道施設の耐震化を更新に組み込む
    3. 重要施設への供給ルートを優先する
  4. 災害時の機能維持には水道BCPが欠かせない
    1. 耐震化だけではカバーできない発災後の対応
    2. 代替給水・予備電源・応援体制を事前に整理する
    3. 上下水道の復旧順序と関係機関の連携を決める
  5. 上下水道の更新設計で押さえる4つのポイント
    1. 1.現況調査と災害リスク評価を行う
    2. 2.重要度と影響度から更新優先順位を決める
    3. 3.供用を止めない施工・切替計画を立てる
    4. 4.維持管理・次回更新まで見据える
  6. 災害に強い上下水道へ更新する基本的な流れ
    1. 1.災害時に維持すべき機能と目標を整理する
    2. 2.調査・診断で弱点と制約条件を把握する
    3. 3.概略検討から実施設計へ落とし込む
    4. 4.施工・運用・BCPまでつなげる
  7. 上下水道の更新設計を相談する会社の選び方
    1. 上水道・下水道・周辺インフラを横断して検討できるか
    2. 計画初期から調査・設計・関係者調整を支援できるか
  8. まとめ|豪雨・地震に備える更新設計で上下水道の機能を守る
  9. 参考資料
    1. 実際に当社で工期短縮を行った事例をご覧いただけます

上下水道の災害対策を「更新設計」で考える理由

上下水道の災害対策では、施設を強くすることだけが目的ではありません。上水道と下水道それぞれの役割を踏まえ、災害時に守るべき機能を明確にしたうえで、更新事業へ具体的に落とし込むことが重要です。


上水道と下水道では守るべき機能が異なる

上水道が担うのは、飲料水や生活用水、医療・福祉施設で使用する水、消火用水などの供給です。地震などで管路や浄水・配水施設が被災すると、住民生活だけでなく、救命活動、医療、消防、事業活動にも影響が及びます。

下水道は、生活排水を衛生的に処理するとともに、雨水を排除して市街地の浸水を抑える役割を担います。豪雨時に排水機能が低下すれば、道路や建物だけでなく、地下空間や地下に設置された電気・機械設備にも被害が広がりかねません。地震による管路損傷や処理施設の停止も、公衆衛生や復旧活動に影響します。

そのため、豪雨時には下水道の排水・処理機能を、地震時には上水道の供給機能を重点的に守りながら、上下水道双方の早期復旧を図る必要があります。


老朽化対策と防災対策を別々に進めない

老朽化した管路や施設を従来と同等の仕様で置き換えるだけでは、将来の災害リスクに十分対応できない場合があります。更新時には、耐震性能、浸水リスク、停電時の運転、代替ルート、点検・補修のしやすさまで含めて検討することが大切です。

たとえば、水道管の更新時に耐震管や耐震継手を採用する、ポンプ設備の更新時に非常用電源や浸水対策を見直す、雨水管の更新時に貯留・浸透施設を含めて排水区全体を再評価するといった方法があります。更新事業と防災対策を一体化すれば、限られた予算と工事機会を有効に活用できます。水道管の基本的な老朽化・耐震化については「水道管の老朽化と耐震化について」もご覧ください。



豪雨時に下水道機能を守るための対策

集中豪雨への対策は、雨水管を大きくするだけでは成立しません。排水区や流域全体を捉え、「流す」「ためる」「しみ込ませる」「施設を守る」という複数の対策を組み合わせる必要があります。


内水氾濫はなぜ起こるのか

内水氾濫は、市街地に降った雨を下水道や水路で排水しきれず、地表に水があふれる現象です。河川から水があふれる外水氾濫とは発生の仕組みが異なります。

短時間に大量の雨が降ると、雨水が一気に下水道へ流入し、管路やポンプの能力を超えることがあります。また、河川水位が上昇すると、吐口から放流しにくくなり、下水道内の水位が上がります。地盤の低い場所や地下空間、道路のくぼ地などには水が集中しやすいため、地域ごとの地形と排水条件を踏まえた内水氾濫対策が必要です。


雨水排水能力と既存管路を確認する

対策を検討する際は、対象降雨だけでなく、流出量、排水区、地盤高、吐口、放流先の河川水位、既存雨水管の口径・勾配・接続状況を確認します。管路の一部に能力不足や逆勾配、流下を妨げる堆積物があれば、その地点がボトルネックとなる可能性があります。

台帳や竣工図を確認するだけでなく、既往浸水実績、現地の高低差、マンホールや吐口の状況、必要に応じた管内調査を組み合わせることが重要です。資料と現況が一致していないケースもあるため、調査結果を設計前提として整理しておくと、後工程の手戻りを抑えられます。


雨水貯留施設・雨水浸透施設で流出を抑える

既存管路の増径が難しい地域では、雨を一時的にためる雨水貯留施設や、地中へ浸透させる雨水浸透施設が有効です。調整池や地下貯留施設、校庭・公園を活用した貯留、浸透ます、浸透トレンチなどを組み合わせ、管路へ流れ込むピーク流量を抑えます。

ただし、どの施設でも設置できるわけではありません。地下水位が高い場所、浸透しにくい地質、周辺構造物への影響が懸念される場所では、浸透施設が適さないことがあります。用地、施工条件、清掃や堆積物除去などの維持管理まで踏まえて方式を選定します。


排水ポンプ・逆流防止・耐水化を組み合わせる

自然流下による排水が難しい低地では、排水ポンプの能力、予備機、非常用電源、燃料の確保、吐出先の水位条件を確認します。ポンプ容量だけを増やしても、放流先の条件や電源が確保できなければ、災害時に十分な効果を発揮できません。

河川や下水道の水位上昇による逆流に対しては、逆流防止弁や止水設備などを検討します。処理場やポンプ場では、開口部への止水扉、電気設備のかさ上げ、防水区画などの耐水化も必要です。管路、ポンプ、逆流防止、施設の耐水化を一体として考えることで、排水・処理機能を維持しやすくなります。



地震時に上水道の供給を維持するための対策

地震対策では、管路や施設の被害を減らす耐震化と、被災しても供給・復旧を継続できるバックアップ対策の両方が欠かせません。


管路破損と断水が地域機能に与える影響

地震によって地盤が大きく変位すると、管体の破損や継手の抜け、構造物との接続部の損傷が起こる可能性があります。液状化や斜面変状、停電によるポンプ停止も断水の原因になります。

断水が長期化すれば、飲料水や生活用水が不足するだけでなく、病院、福祉施設、避難所、消防活動、事業活動にも影響します。更新の優先順位を決める際は、管路の劣化度や耐震性だけでなく、停止した場合に地域へどのような影響が生じるかを見る必要があります。


水道管・水道施設の耐震化を更新に組み込む

管路の更新では、耐震管・耐震継手の採用を検討します。ただし、管種だけで耐震性が決まるわけではありません。地盤条件、埋設深さ、既設管との接続、構造物との取り合い、施工方法を含めて、路線全体の弱点を確認することが重要です。

浄水場、配水池、ポンプ場では、構造物の耐震性能に加え、配管、機械設備、電気設備、支持部材、伸縮可とう部なども確認します。構造物が健全でも、設備や接続部が損傷すれば運転を継続できないためです。老朽化設備の更新時に耐震性を同時に見直すことで、工事の重複を減らしやすくなります。






重要施設への供給ルートを優先する

すべての管路を同時に耐震化することは現実的ではありません。そこで、病院、避難所、災害対策拠点、消防などへの供給ルートを特定し、基幹管路や重要給水施設につながる管路から優先的に更新します。

あわせて、管網のループ化、連絡管の整備、系統分割、緊急遮断弁などを検討すると、事故時の影響範囲を限定し、別系統から供給できる可能性が高まります。個別施設の耐震化だけでなく、地域全体の供給ネットワークとして冗長性を持たせることが重要です。



災害時の機能維持には水道BCPが欠かせない

耐震化や浸水対策を進めても、すべての被害を防ぐことはできません。限られた人員と資機材で優先業務を継続し、復旧するためには、水道BCPを整備し、ハード対策と運用を結び付ける必要があります。


耐震化だけではカバーできない発災後の対応

災害時には、想定を超える施設被害に加え、停電、通信障害、道路寸断、職員の参集困難、協力会社の被災が重なる可能性があります。そのため、初動体制、被害情報の収集、応急給水、応急復旧、住民への情報発信、外部支援の受入れを事前に定めておくことが必要です。

BCPは作成して終わりではありません。連絡訓練や応急給水訓練、机上演習を通じて、連絡先が古い、担当者が不在のときに判断できない、資機材の搬出が難しいといった課題を確認し、継続的に更新します。


代替給水・予備電源・応援体制を事前に整理する

応急給水拠点、給水車、仮設給水設備、資機材の備蓄場所を整理し、誰が、どの経路で、どの順番に運用するかを具体化します。ポンプや監視設備を動かすための非常用電源、燃料、可搬型発電機の接続方法も確認が必要です。

大規模災害では、他の水道事業体や施工会社から支援を受けることも想定されます。応援要請の手順、受入窓口、作業拠点、宿泊・燃料、図面や施設情報の共有方法まで決めておくと、受援を円滑に進めやすくなります。


上下水道の復旧順序と関係機関の連携を決める

上水道を復旧して給水を再開しても、下水道の排水・処理機能が停止していれば、地域の生活機能は十分に回復しません。上下水道の被害情報を共有し、どの地域・施設から復旧するか、限られた人員・資機材をどう配分するかを事前に整理しておく必要があります。

また、道路を掘削して復旧するには、道路管理者や警察との調整が必要です。河川管理者、電力、通信、ガス、施工会社などとの連携も欠かせません。災害時に初めて調整を始めるのではなく、平常時から役割と連絡ルートを決めておくことが機能回復のスピードを左右します。



上下水道の更新設計で押さえる4つのポイント

災害対策を更新計画・設計へ落とし込む際は、次の4つの視点で検討すると、対策の優先順位と実現方法を整理しやすくなります。






1.現況調査と災害リスク評価を行う

台帳、竣工図、点検・事故履歴から、管路・施設の位置、仕様、健全度を整理します。そのうえで、浸水想定区域、想定地震動、液状化、地盤条件、停電リスク、緊急車両や復旧車両のアクセス条件を重ね、災害時の弱点を把握します。

資料間で位置や仕様が異なる場合や、未確認区間がある場合は、現地確認、測量、管内調査、試掘などの追加調査を検討します。下水道管の劣化や調査方法については「下水道管の老朽化とは?道路陥没が起きる原因・調査方法・対策」も参考になります


2.重要度と影響度から更新優先順位を決める

劣化が進んだ施設から更新するだけでは、災害時の機能維持につながらないことがあります。破損・停止した場合の断水人口、浸水範囲、重要施設への影響、代替ルートの有無、復旧の難しさを評価し、優先順位を決めます。

緊急度、防災効果、事業費、工期を可視化しておけば、予算制約のなかで段階的に整備する場合も、全体目標との整合性を保ちやすくなります。


3.供用を止めない施工・切替計画を立てる

上下水道は、原則として供用を続けながら更新する必要があります。仮設配管やバイパス、施工区間の分割、夜間切替、バックアップ設備、排水・給水制限などを検討し、利用者と周辺地域への影響を抑えます。

道路内で工事する場合は、交通規制、他の地下埋設物、施工ヤード、資機材搬入、残土搬出などの条件も設計へ反映します。施工段階で条件が判明すると工法変更や工程遅延につながるため、設計段階から施工・切替手順を具体化することが重要です。「上下水道設計で工期を短縮するために、設計段階でできること」もあわせてご覧ください。


4.維持管理・次回更新まで見据える

完成時の性能だけでなく、点検、清掃、修繕、設備交換のしやすさも確認します。点検口や搬入経路、作業スペース、交換部品の調達性、監視・記録方法が不十分だと、災害時の対応や日常の維持管理が難しくなります。

また、将来の降雨条件や水需要、周辺開発、次回更新を見据え、増強や切替が可能な構成にしておくことも重要です。供用期間全体で機能を維持しやすい設計が、結果として災害対応力を高めます。



災害に強い上下水道へ更新する基本的な流れ

災害対策を含む更新事業は、詳細設計から始めるものではありません。まず守るべき機能と目標を整理し、調査、比較検討、設計、施工・運用へ段階的につなげます。


1.災害時に維持すべき機能と目標を整理する

対象地域・施設、想定する災害、許容できる停止時間、目標復旧時間、優先する給水・排水機能を整理します。「災害に強くする」という抽象的な目標ではなく、どの機能を、どの程度、いつまでに維持・復旧するかを明文化します。


2.調査・診断で弱点と制約条件を把握する

既設管路・施設の健全度、能力、耐震性、浸水リスクを確認します。あわせて、周辺埋設物、道路・河川・用地条件、施工中の供用条件、関係機関との協議事項を整理します。追加調査が必要な項目を早期に切り分けることで、設計後半の手戻りを抑えられます。


3.概略検討から実施設計へ落とし込む

複数案について、防災効果、施工性、事業費、工期、維持管理性を比較し、整備方式と優先順位を決めます。その後、管径・ルート・施設仕様、仮設、施工・切替手順、関係機関との協議条件を実施設計へ反映します。


4.施工・運用・BCPまでつなげる

設計で整理した条件を施工計画へ確実に引き継ぎます。供用開始後は、施設の点検、訓練、資機材・連絡体制の確認を行い、施設更新の内容に合わせてBCPも見直します。設備を整備することではなく、災害時に実際に動かせる状態を維持することがゴールです。






上下水道の更新設計を相談する会社の選び方

災害対策を含む更新設計では、個別施設の計算だけでなく、上下流の施設、周辺インフラ、施工、運用を横断して検討する力が求められます。


上水道・下水道・周辺インフラを横断して検討できるか

上水道と下水道の特性を理解し、道路、河川、地下埋設物、地下構造物、電気・機械設備との取り合いまで検討できるかを確認します。類似施設、供用中の施工、都市部の地下空間などの設計実績があるか、調査から計画・設計までどこまで対応できるかも選定のポイントです。


計画初期から調査・設計・関係者調整を支援できるか

発注仕様が固まった後だけでなく、課題整理、必要調査、概略案、優先順位、事業工程の段階から相談できる会社であれば、見落としや手戻りを減らしやすくなります。発注者、施設管理者、道路・河川管理者、施工者などの意見を整理し、実現可能な設計へ反映できることも重要です。



まとめ|豪雨・地震に備える更新設計で上下水道の機能を守る

豪雨時の下水道対策では、雨水管の能力確認に加え、貯留・浸透施設、排水ポンプ、逆流防止、施設の耐水化を地域条件に応じて組み合わせます。地震時の上水道対策では、管路・施設の耐震化、重要施設への供給ルート、代替供給、バックアップ機能を検討します。

さらに、ハード対策だけでなく、水道BCP、応急給水、受援体制、上下水道の復旧順序まで一体で考えることが必要です。現況調査とリスク評価をもとに更新優先順位を決め、供用を止めない施工・切替計画と維持管理へつなげることで、災害時にも必要な機能を守りやすくなります。

メトロ設計では、上下水道、道路、地下構造物などの設計経験を生かし、計画初期の課題整理から調査、設計、関係者調整まで支援しています。老朽化更新と災害対策をどのように両立すべきかお悩みの場合は、メトロ設計へお問い合わせください。



参考資料

国土交通省「下水道による浸水対策」
国土交通省「下水道による内水浸水対策について」
国土交通省「地震対策の推進-上下水道」
東京都水道局「水道局の災害対策」
日本水道協会「地震等緊急時対応の手引き」
横浜市「上下水道の地震対策」
千葉県「企業局(上水道)の災害対策」


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わたしたちは60年に渡り、社会資本の施工事業者のパートナーとして現地調査・計画・設計等に専心してまいりました。
長年の知識を生かしたマネジメントで、住民の方と施工事業者との架け橋となるような、建設コンサルタントを目指しています。
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