水道管の老朽化問題とは?社会問題となっている水道事業の現状と原因・解決方法について詳しく解説

カテゴリ: 水道管
公開日 2024.3.28

水道管の老朽化は深刻な社会問題です。本記事では、現状の問題点とその原因を解析し、実効性のある解決策を提案します。インフラの持続可能性向上に向けた取り組みを探ります。日本全国で水道管の老朽化が深刻な社会問題となっています。 多くの水道管が高度経済成長期に敷設され、現在に至るまでその多くが耐用年数を超えて使用され続けているためです。水道管の老朽化問題は、水漏れや断水といった直接的なトラブルのみならず、財政負担の増大や水質低下など、広範囲にわたる影響を及ぼしています。

この記事では、この問題の現状と原因、可能な解決策について詳しく解説します。

社会問題となっている水道管の老朽化

水道は私たちの生活に不可欠なインフラであり、供給を支える水道管の健全性は公衆衛生や日常生活に直接関わる重要な問題です。しかし、日本各地で水道管の老朽化が社会問題となっています。 ここでは、水道管の老朽化問題の現状と、実際に起きた事故事例を通して、その深刻さに迫ります。





水道管が老朽化している実情

水道管の老朽化は、長年の使用とメンテナンス不足によって進行します。
これが原因で発生する水漏れや断水は、住民の日常生活に甚大な影響を及ぼし、経済活動にも悪影響を与えます。
さらに、老朽化した水道管の維持・更新には莫大なコストがかかり、地方自治体の財政を圧迫しているのが現状です。

2021年10月3日、和歌山市の紀の川に架かる水管橋が崩落し、市内約6万戸が断水しました。 この事故は、橋のアーチ部分に吊るされた鋼管製のつり材が腐食して切れたことが原因です。
この水管橋はその耐用年数48年を目前に控えていました。
この事故は、水道管の老朽化と点検の甘さが引き起こした典型例であり、多大な不便と苦痛を市民に強いました。
また、同年10月7日には千葉県市原市で、地震によって水管橋の水道管から水が噴き出す事故が発生。
この事故では、水道管の接続部分を固定するボルトの経年劣化が原因でした。
自然災害による被害も、老朽化したインフラでは避けがたく、そのリスクは年々高まっています。





なぜ水道管の老朽化が問題となっているのか

水道管の老朽化は、人口減少による使用量減少と相まって経営難を深めています。
さらに、水道事業で働く人々の高齢化も問題を加速させ、日本の水道インフラ維持に深刻な影響を及ぼしています。
以下で水道管の老朽化問題の原因を詳しく見ていきましょう。

水道設備・管路の老朽化

日本の高度経済成長期には、国土全体で大規模なインフラ整備が進められました。
この時期に敷設された多くの水道管が、設計上の耐用年数である40年を同時期に迎えています。
結果として、老朽化した水道管の更新が一斉に必要となり、莫大な費用と労力が求められる状況にあります。
また耐震化の問題も、水道設備・管路の老朽化を加速させています。

厚生労働省の報告によると、2020年3月末時点での基幹管路の耐震適合率は全国平均で40.9%に留まっています。
特に、地方部では耐震化が進んでおらず、地震発生時の被害が懸念されています。
全国の水道管総延長は約72万キロに及びますが、老朽化率は年々上昇しており、2018年度末には17.6%に達しました。
一方で、更新された水道管の割合は低下しており、現在のペースでは全ての管を交換するのに約140年を要する計算です。


出典:厚生労働省 水道施設の耐震化の推進
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/taishin/index.html



人口減少と老朽化問題の関係性

2011年に約1億2780万人だった日本の人口は、減少の一途をたどり、2022年3月の確定値では約1億2510万人になりました。
少子化の影響で出生数は年々減少し、2021年には約81万人と過去最少を記録。
これに対して、死亡数は約144万人と、新たに生まれる人数を大きく上回っています。
人口減少は水道事業に大きな影響を与えます。
人口が減ると、水道管を通して水を供給する顧客の数も減少し、 2000年をピークに、国内での水の需要は右肩下がりに減少しています。
これは、節水型家電の普及や節水意識の向上が影響していると考えられています。
消費者にとっては良いことですが、水道事業者にとっては、使用量の減少が収入減に直結します。

水道事業職員の高齢化

水道インフラの老朽化問題を深刻化させている原因の一つに、水道事業に従事する技術系職員の高齢化が挙げられます。現状では、技術系職員の約40%が50歳以上という状況にあり、この高齢化は、水道技術の継承にも大きな問題を引き起こしています。
技術系職員の高齢化は、水道事業の持続可能性に影響を及ぼしています。
特に地方の小規模な自治体では、技術系職員が非常に限られており、事務系と技術系を合わせても2、3人程度、場合によっては担当者が1人しかいないという自治体も存在します。
これでは、日常の運用管理はおろか、老朽化した水道管の点検や更新作業を適切に行うことが困難に。
さらに高齢化だけでなく、水道事業への新たな人材の流入も減少しています。
これは、給与や待遇面での問題、または単に専門職としての認知度が低いことなど、多様な要因があると言われています。
結果として、技術職員の高齢化と同時に進む人材不足は、今後さらに技術継承を困難にし、水道事業の質の低下を招く恐れがあります。


出典:厚生労働省 水道の現状と水道法の見直しについて
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000195380.pdf



水道事業の経営難

水道事業が直面している経営難は、日本の多くの自治体で水道インフラの老朽化問題を深刻化させています。
この背景には、自治体水道事業の「独立採算制」と「水道料金収入の減少」という要因があります。
日本の自治体水道事業は地方公営企業法に基づき、独立採算制を採用しています。
これは、水道事業の経営に必要な費用を水道料金収入で賄うというものです。
独立採算制は、事業が自己責任で経営を行うことを意味しますが、収入が減少すると、事業継続に直接影響を与えます。
しかし人口減少により、水道料金収入は減少する一方です。
例えば和歌山市では、人口が平成元年の約39万9000人から令和4年には約35万1000人に減少しました。
水道料金収入も同様に減少し、経営に大きな圧力をかけています。
水道料金の値上げは避けられず、事業維持のためだけでなく、老朽化対策や新浄水場建設などのためにも必要です。
しかし、人口減少が続く中で料金を上げると、利用者負担の増大やさらなる使用量の減少を招く可能性があります。





水道管の老朽化問題を解決するためには

水道管の老朽化は、安全かつ確実な水の供給を脅かす重大な問題です。
この問題に対処するためには、水道事業のアセットマネジメントの強化、水道事業の広域化、そして水道行政の移管など、複数のアプローチが必要です。

水道事業のアセットマネジメント

水道事業における老朽化問題への解決策として、アセットマネジメントの重要性が高まっています。
アセットマネジメントには、施設の現状把握、将来予測、計画策定、実行、評価という5つの基本要素が含まれます。
具体的には、施設の種類や築年数、状態の調査・把握、人口減少や地震リスクを考慮した将来の需要・供給予測、そして更新時期や方法、資金計画を含む長期計画の策定などです。
これらの活動を通じて、計画に基づいた施設の更新や維持管理が行われ、その結果は評価され計画の見直しが行われます。
水道事業におけるアセットマネジメントの導入は、老朽化問題への効果的な解決策として、多くのメリットがあります。効率的な老朽化対策、財政健全性の維持、サービス品質の向上、情報の透明性の確保を実現することで、持続可能な水道事業運営に必要な基盤を築きます。
この体系的なアプローチの更なる推進が、今後の水道事業の持続可能性を高める鍵となるでしょう。

水道事業の広域化

水道管の老朽化問題への解決策として、水道事業の広域化が注目されています。
水道事業の広域化は、複数の自治体が連携して水道事業を運営することにより、経営基盤の強化、技術力の向上、災害対策の強化、および水道水の安定供給という課題の解決を目指します。
小規模な自治体でも安定した水道サービスの提供が可能となり、財政的および技術的な課題に対処できるようになります。
解決される可能性のある課題は、以下の通りです。

●経営基盤の強化
●技術力の向上
●災害対策の強化
●水道水の安定供給

ただし広域化の推進にあたっては、複数の自治体間での合意形成の難しさ、効率的な運営体制の構築・情報共有、および地域間での料金体系の統一など、さまざまな課題が存在します。
これらの課題に対処するためには、明確なガイドラインの策定や、効果的なコミュニケーション戦略が必要となります。

例:水道行政の移管(厚労省から国交省へ)

水道行政の移管は、直接的な老朽化対策ではないものの、社会資本整備や災害対策を含めた広い意味での水道インフラ強化策と言えるでしょう。
蛇口から出る水を管轄する厚生労働省と、排水処理を担う国土交通省の役割分担が一つの水道行政に集約されることで、一体的な管理と効率的な運営が期待されます。
移管は多くのメリットをもたらしますが、実際の運営や自治体との調整、料金体系の統一など、解決すべき課題も残ります。特に、水質・衛生管理を環境省が担うことになるため、各省庁間での連携と情報共有の重要性が高まります。

 

まとめ

水道管の老朽化は、日本全国で深刻化する社会問題です。
原因としては、高度経済成長期に敷設された水道管が一斉に耐用年数を迎えていること、人口減少による収入減少、技術者の高齢化、そして自治体の財政難が挙げられます。
解決策は、アセットマネジメントの導入、水道事業の広域化、行政の移管、技術革新の活用などです。
これらは全て、持続可能な水道インフラの実現に向けた重要なステップです。
水道管の老朽化に関連するトラブルに直面した場合、「メトロ設計」へ問い合わせることをおすすめします。
メトロ設計は、専門知識と技術を持っており、効率的かつ効果的な対策を提供いたします。

 
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