日本における無電柱化のあゆみと政策背景|これからの整備の方向性

公開日 2023.5.30
更新日 2026.4.13

はじめに

無電柱化は、景観向上や防災性の強化といったメリットが語られることが多い一方で、実際の事業では「なぜ進まないのか」「どこが難しいのか」といった課題に直面するケースも少なくありません。

その背景には、制度、都市構造、既存インフラ、関係者調整などが複雑に絡み合った構造的な難しさがあります。本記事では、日本における無電柱化のあゆみと政策の変遷を整理しながら、現在の取り組みとこれからの整備の方向性を読み解きます。実務において何が求められるのかを考える視点を提示します。



日本の無電柱化はなぜ遅れてきたのか

日本の無電柱化が進みにくい背景には、制度だけでなく都市構造やインフラ条件など、複合的な要因があります。ここでは、その構造を整理します。


日本と海外の整備状況の違い

欧米の都市では、電線の地中化が都市整備の前提として進められてきました。一方、日本では高度経済成長期に架空線による整備が急速に広がり、現在も広範な既存ストックが残っています。

この違いにより、日本では新規整備ではなく「既存環境の中での再整備」となるため、難易度が高くなっています。


コスト負担構造の複雑さ

無電柱化は電線共同溝などの整備が必要となり、初期コストが大きくなります。さらに、道路管理者だけでなく、電力会社や通信事業者との費用分担が発生します。

関係者ごとに投資判断の基準が異なるため、合意形成に時間がかかる構造となっています。


占用者(電力・通信)との調整構造

電力や通信など複数の事業者が関与するため、管路配置や設備設計、施工タイミングなどの調整が必要になります。

各事業者の設備条件や運用制約を踏まえた調整が求められ、設計の自由度が制約されることもあります。


道路条件・地下インフラの制約

日本の都市は狭い道路が多く、地下には既存インフラが密集しています。上下水道、ガス、通信管路などとの干渉を避けながら新たなスペースを確保する必要があります。

このような条件が、設計の難易度を高めています。





引用:東京都政策企画局(https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/2050-tokyo/promotion/tokyo-resilience


無電柱化政策の変遷(制度の流れ)

無電柱化は当初、景観整備を目的とした取り組みとして始まりましたが、現在では防災や都市機能の確保といった観点から、重要な社会インフラ政策へと位置づけが変化しています。ここでは、政策の変遷を「何が変わったのか」という視点で整理します。


景観整備として始まった無電柱化

初期の無電柱化は、観光地や歴史的街並みなど、景観価値の高いエリアを中心に進められてきました。電柱や架空線を撤去することで、街並みの美観を向上させることが主な目的でした。

そのため、整備対象は限定的であり、都市全体に広がる取り組みではありませんでした。また、事業としての優先順位も高くはなく、個別のプロジェクトとして位置づけられることが多かったのが実態です。

この段階では、「必要な場所で個別に実施するもの」という認識が強く、体系的な整備には至っていませんでした。


無電柱化推進法による政策転換

こうした状況を大きく変えたのが、2016年に成立した 無電柱化推進法 です。

この法律により、無電柱化は景観整備にとどまらず、防災、安全、通行確保といった社会的機能を担うインフラとして明確に位置づけられました。特に、災害時の道路機能の確保という観点が強く打ち出されたことは、大きな転換点といえます。

また、国・自治体・関係事業者が連携して取り組むべき課題として整理され、これまで個別対応だった無電柱化が、政策として体系的に推進される基盤が整いました。


無電柱化推進計画と加速化戦略

その後、国土交通省 による推進計画や加速化戦略が策定され、具体的な整備方針が示されました。 特徴的なのは、「すべてを無電柱化する」のではなく、「優先すべき路線から進める」という考え方が明確になった点です。緊急輸送道路や避難路といった、防災上重要な路線を中心に整備を進める方針が示され、限られた予算の中で効果を最大化する方向へと舵が切られました。

また、コスト縮減や施工の効率化といった観点も重視されるようになり、単なる理想論ではなく、実行可能性を前提とした政策へと進化しています。

無電柱化は、景観整備から防災・都市機能へと役割を変えながら進められてきました。その流れを整理します。








協議前提で進む設計

無電柱化が改めて注目されている背景には、防災、都市開発、インフラ更新といった複数の要因があります。これらが重なり合うことで、「今やるべき理由」が明確になりつつあります。


災害対策としての必要性(防災・減災)

近年の台風や地震では、電柱の倒壊による停電や道路閉塞が各地で発生しています。これにより、救急・消防などの緊急対応が遅れるケースや、復旧活動に支障が出るケースも確認されています。

無電柱化は、こうしたリスクを構造的に回避する手段として位置づけられています。電線を地中化することで、倒壊や断線のリスクを低減し、災害時でも道路機能とライフラインを維持しやすくなります。

東京都 では、緊急輸送道路や避難路を中心に無電柱化が優先的に進められています。これは単なる景観整備ではなく、「災害時に機能するインフラ」を確保するための施策として位置づけられています。


都市再開発・まちづくりとの連動

無電柱化は単体のインフラ整備ではなく、都市再開発やまちづくりと一体で進められるケースが増えています。

電柱や架空線がなくなることで、歩行者空間の拡張や視界の改善が可能となり、街の回遊性や滞在性が向上します。また、景観の統一感が生まれることで、都市のブランド価値や不動産価値の向上にもつながります。

大阪市 の御堂筋では、無電柱化と歩行者中心の空間整備が一体で進められています。単なるインフラ更新ではなく、「都市のあり方を再設計するプロジェクト」として位置づけられている点が特徴です。





引用:御堂筋の道路空間再編に向けたモデル整備について


このように、無電柱化は「あると良い施策」から、「都市価値を高める前提条件」へと位置づけが変わりつつあります。


インフラ更新との一体整備

もう一つ重要な背景が、インフラの老朽化です。上下水道やガス管、通信設備など、多くのインフラが更新時期を迎えています。

このタイミングで無電柱化をあわせて実施することで、個別に工事を行うよりも効率的に整備を進めることができます。掘削や復旧を複数回行う必要がなくなり、工期短縮やコスト削減につながるためです。

一方で、インフラ更新と無電柱化を切り離して進めてしまうと、将来的に再度掘削が必要になるなど、非効率な結果を招く可能性もあります。

そのため現在は、「単独で無電柱化を行う」のではなく、「他インフラと一体で整備する」という考え方が重要になっています。 現在、無電柱化が進められている背景には、社会環境や都市課題の変化があります。


政策と現場のギャップ

制度や方針は整備されつつある一方で、実務の現場では計画通りに進まないケースも多く見られます。無電柱化は制度だけで完結するものではなく、既存インフラや関係者との調整など、現場特有の条件に大きく左右されるためです。ここでは、実際に起きやすいギャップのポイントを整理します。


制度は進んだが現場は複雑化している

無電柱化推進法や各種計画の整備により、対象エリアや優先路線は明確になってきました。一方で、整備対象が都市部へ広がるにつれて、現場条件はより複雑になっています。

特に既成市街地では、道路幅員が限られている上に、既存インフラが高密度に埋設されているケースが多く、標準的な設計では対応できない場面が増えています。制度上は「進めるべき」とされていても、現場では一つひとつ条件を読み解きながら個別対応が求められるのが実態です。


地下埋設物・既存インフラの干渉問題

無電柱化において最も大きなハードルの一つが、地下埋設物との干渉です。上下水道、ガス、通信管路などが複雑に入り組んでおり、新たに管路を配置する余地が限られています。

さらに、既存図面と現況が一致しないケースも少なくありません。試掘や詳細調査の段階で想定外の埋設物が見つかり、設計変更を余儀なくされることもあります。このような不確実性を前提に、柔軟に対応できる設計が求められます。


関係者調整の難易度

無電柱化は、道路管理者だけでなく、電力会社、通信事業者、施工者など、多くの関係者が関与する事業です。それぞれの立場や制約条件が異なるため、調整には時間と労力を要します。

例えば、設備配置一つをとっても、各事業者の仕様や運用条件を踏まえたすり合わせが必要になります。また、費用負担の考え方や施工スケジュールの調整も重要な論点となります。

こうした調整が不十分なまま進めると、後工程での手戻りや合意のやり直しが発生し、結果として工期やコストに影響を及ぼすことになります。


計画段階の判断が事業成否を分ける

無電柱化では、計画初期の判断が事業全体の成否を大きく左右します。方式選定(電線共同溝か単独地中化か)、ルート設定、管路配置といった基本方針が、その後の設計・施工に直結するためです。

特に、将来の維持管理や更新まで見据えた設計が重要になります。初期段階での検討が不十分な場合、施工段階での設計変更や、運用段階での不具合につながる可能性があります。

そのため、制度や標準仕様に沿うだけでなく、現場条件を踏まえた最適解を導き出すことが求められます。





引用:次期「東京都無電柱化計画」の方針より


これからの無電柱化の方向性

無電柱化はこれまでのように「可能なところから進める」段階から、「どこを優先し、どのように進めるかを設計する」段階へと移行しています。政策・技術・事業環境の変化を踏まえ、今後はより現実的で効率的な進め方が求められます。


優先順位型の整備へのシフト

これまでの無電柱化は、景観やモデル事業として個別に進められるケースも多く見られましたが、現在は「すべてを地中化する」のではなく、「優先すべき路線から整備する」という考え方が主流となっています。

例えば、防災上重要な緊急輸送道路や避難路、都市機能の中核となる幹線道路などが優先対象とされます。これは、限られた予算の中で最大の効果を得るための合理的な判断です。

国土交通省 の推進計画においても、こうした優先整備の考え方が明確に示されており、今後は「どこをやるか」の選定がより重要なテーマになります。


技術活用(BIM/CIM等)による効率化

無電柱化の難しさの一つである地下埋設物の干渉や関係者調整に対して、技術活用による解決が進んでいます。

BIM/CIMを活用することで、地下の状況を三次元で可視化し、干渉の有無や施工手順を事前に確認することが可能になります。これにより、設計段階での不確実性を低減し、施工段階での手戻りを防ぐことができます。

また、関係者間で同じモデルを共有することで、合意形成がスムーズになるという効果もあります。従来は図面ベースで行っていた調整が、より具体的なイメージをもとに進められるようになります。

横浜市 では、こうした技術を活用した設計の高度化が進められており、今後の標準的な手法になっていくと考えられます。


官民連携・事業スキームの変化

無電柱化は単独のインフラ整備として進めるのではなく、都市開発や再開発事業と一体で進めるケースが増えています。

例えば、駅前再開発や大規模開発においては、道路整備と同時に無電柱化を行うことで、景観や都市機能の向上を図る動きが見られます。デベロッパーが主体となって事業を推進するケースもあり、従来の公共主導とは異なる進め方が広がっています。

また、インフラ事業者との連携もより重要になっています。電力・通信事業者と早期に調整を行い、設計段階から一体で検討を進めることで、後工程での調整負担を軽減することが可能になります。

今後は、「単体の工事」としてではなく、「エリア全体の価値を高めるプロジェクト」として無電柱化を捉える視点が求められます。

無電柱化を進める上で重要な視点

制度理解だけでなく、現場条件に応じた柔軟な判断が求められます。特に初期段階での設計判断は、コストや工期に大きな影響を与えます。

技術・調整・事業性のバランスを踏まえた総合的な判断が重要です。



無電柱化の計画・設計でお悩みの方へ

無電柱化の検討において、以下のようなお悩みはありませんか。
●制度や方針は理解しているが、具体的にどう進めるべきか分からない
●地下埋設物や既存インフラとの干渉で設計がまとまらない
●電力・通信など関係事業者との調整が難航している
●方式選定やルート設計の判断に確信が持てない
●計画段階でどこまで検討すべきか判断がつかない
無電柱化は、制度・技術・関係者調整が複雑に絡み合う分野であり、初期段階での判断がその後のコストや工期、事業全体の進行に大きく影響します。


メトロ設計では、無電柱化に関する計画・設計において、以下のような支援を行っています。

●現場条件を踏まえた方式選定・ルート検討
●地下埋設物を考慮した設計検討・干渉リスクの整理
●関係事業者との調整を見据えた設計方針の立案
●工期・コスト・施工性を踏まえた実現可能な計画設計

「制度上は進めるべきだが、現場ではどう進めればよいか分からない」といった段階からでも問題ありません。
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暮らしに密着した社会資本を整備する、専門家集団です。
わたしたちは60年に渡り、社会資本の施工事業者のパートナーとして現地調査・計画・設計等に専心してまいりました。
長年の知識を生かしたマネジメントで、住民の方と施工事業者との架け橋となるような、建設コンサルタントを目指しています。
無電柱化や電線共同溝、道路、上下水道、地下鉄など、地下インフラの整備は弊社へお任せください。どうぞお気軽にご相談くださいませ。